股関節痛の鍼のついて
股関節やお尻の痛みの原因と症状
股関節は骨盤と大腿骨からなる前、後ろ、外側、内側、ひねり方向へ動く自由度の高い関節です。身体のなかで最も荷重のかかる関節であるため強い支持性をもち、大きな荷重に耐えられる構造になっています。
主には筋肉、靱帯、関節包によって支持されており、これらの組織がバランスよく機能することにより安定した関節運動をすることが出来ています。
股関節は三次元的に稼働する関節であるので腰の筋肉、お尻、脚の筋肉が重なりあって様々な方向への運動を生みだしています。
この股関節に痛みが出る原因のひとつに筋肉の拘縮によって関節のバランスがくずれ関節運動の安定性が保持できなくなります。
特に大腰筋、腸骨筋、中殿筋、小殿筋、梨状筋などのインナーマッスルの拘縮が原因となっていることが多くみられます。
運動不足(デスクワーク、運転など長時間同じ姿勢の維持)や反対に身体の酷使(肉体労働やスポーツ)、転倒などの外傷や事故後の後遺症が多いです。
股関節周囲に筋緊張があると以下のような症状があります。
・長時間座っているとお尻が締め付けられるような痛みがある
・車の乗り降りなどに痛みをともなう
・股関節を動かすとコキッと音がする
・歩行時痛があり痛みが強いと跛行(かばって歩く)がある
・脚の付け根が詰まるような感覚がある
・太腿が挙がりにくく、靴下が履きにくい
・胡坐(あぐら)が痛くてかけない、またはかけても脚が開かない
・腰と骨盤の境い目が痛む
上記の症状があり股関節周辺組織の拘縮が続くと次のような変化が起こることが考えられます
・骨棘(骨のでっぱり)ができて関節が変形する
・関節の隙間が狭くなり骨と骨が擦り合わさる為に軟骨がすり減る
・軟骨や靱帯などの軟部組織がこすれ炎症をおこし関節液が溜まり腫れる
・最終的には軟骨が消失して、骨を削り変形する
・神経を圧迫して脚に痺れが出る
・血流が阻害され、虚血性大腿骨頭壊死がおこる
このような関節の変形・狭小が起こったり、炎症が起きたりするには、かなりの長い年月を要するか、またはかなりの強度の酷使があった場合です。
その過程で関節周囲の筋肉の緊張が継続して悪化した結果だということです。
骨(大腿骨頭骨)が露出する所までくると整形外科では手術の適応となってしまいます。
そうなる前に鍼で股関節周囲の筋肉を緩めたり、股関節周囲の靭帯の癒着を解き、柔軟性を取り戻すべきだと考えます。
股関節、お尻の痛みへの鍼治療
中殿筋と小殿筋への刺鍼がメインとなり、鼠径部、大腿部の痛みがある場合は腸骨筋・大腿四頭筋などに横向きの姿勢か仰向けで刺鍼します。また腰痛をお持ちの方には大腰筋や多裂筋への刺鍼をおこない症状によっては恥骨筋、内転筋群、腹筋群、中間広筋への刺鍼をします。
〔股関節を中心にインナーマッスルである小殿筋・中殿筋へ刺鍼して股関節まわりの血流を改善させます〕
〔仰向けで骨盤の内側にある腸骨筋へ刺鍼して骨盤内外の筋緊張をほぐして股関節の可動域をひろげます〕
小臀筋は、その奥の関節包、靭帯が癒着し撚鍼(鍼を捻りながら刺入)しないと入りません。9㎝から12㎝の鍼を使用します。
また、腸骨筋も凝りが悪化している場合は非常に硬くなることが多い筋肉です。こちらも10~12㎝の鍼を使用します。
治療回数
股関節の深層筋の治療は他の部位に比べて筋肉の固まり方が強くなっている事が多く、治療回数もそれだけ多くかかります。目安としては急性期の場合は3~5回、慢性期に場合は10~20回、骨の変形まである人はそれ以上にかかります。ただし、どのような状態であっても3回までには痛みや動きの変化が現れます。3回の施術で全く何の変化もなければ他の原因も考えられますので病院の受診をおすすめします。
また年齢によっても鍼治療回数が大きく異なります。20代で股関節の悪い人は10回もかからないのですが、40~50歳代では半年ぐらい、60代では一年ぐらいの鍼治療が必要です。しかし確実に改善します。
鍼が刺さらないぐらい筋肉が固まっている場合は、治療を初めて一ヶ月ぐらいは収縮した筋肉に血液が流れ込むため一時的に痛みが出る場合があります。
身体の奥深くに位置する小殿筋や腸骨筋が、長期に緊張し、凝り固まって線維化した場合は、ストレッチや電気治療、マッサージや浅い鍼等では解れる事はないので、治療の回数はかかっても、手術が回避できる方法としては唯一ではないかと考えています。